■建築家より

 スチールは最も開かれた素材です。
 だからスチールの特質を応用することで様々な表現が可能になります。反対に限定することで、必要とされるパフォーマンスのみに応えるピュアなシステムをつくることも可能です。この「多様化」と「システム化」。モダニズムの教義にもある問題ですが、時代の影響を受けてはそのうち片方がクローズアップされて、いまだにデザイナーは前者を、エンジニアは後者を追求するものと考えられてしまう問題でもあります。しかし、スチールのパフォーマンスを最大現に引き出すのには、この両面についてを模索する必要がある。この「鐵の家ギャラリー」では、その可能性を探ることから出発しています。特に現在の商品化住宅は見せかけばかりの多様性に終始し、「システム化」が硬直したものなのです。

 「システム化」は、工業化・商品化を見据えた場合不可欠なものです。施工性や不特定多数のユーザー要求、敷地条件に容易に反映される許容度の高いものにするためには、PCにおけるアプリケーションのように、建物であるにも関わらず、扱いの容易なツールのようなものにまで発展させる必要がある。それには、物質を可能な限り少なく、単純なルールに支配されるものにまでデザインの範囲を拡げてみなければならない。それが結果として、屋根トラスと移動自由な4cm支柱と3mmプレートというアプリケーションになりました。

 前者の「多様性」については、この敷地のもっているとても豊かな自然と、さらに、法華経寺のある昔ながらの駅からこのギャラリーに至るアプローチのたいへんのんびりとした気持ち良さを享受できるものにする。これを具体的に適応させました。そのために、全面道路から直角方向に導く道のような長さ30m以上もある細長い空間を用意し、道の延長として位置づけようとしています。

 つまり、「システム化」されたものの余白において、「多様性」というものを位置づける。そうした解決です。しかしそれが可能なのも、こんな細長い空間に対応可能なほど許容度の高いシステムがあってからこそなのです。同様に現代に不可欠なシェルター機能についても「システム化」を考えています。そのために容易に取り付け可能な高性能断熱パネルとサッシュを開発をし、他に防犯網戸や防犯ルーバー、夜間熱損失のためのスライドドアも用意しています。

 一個人の建築家だからこそできる商品開発とはこのようなことだと考えています。つまり、フットワークが軽いことを利用して、これら「多様化」と「システム化」を同時にフィードバックさせながら商品をボトムアップさせること。そうして、自然の中に違和感なく併存する人工物が実現できるはずなのです。豊かなものとして。スチールはそうしたポテンシャルを秘めた素材なのです。

遠藤政樹・建築家